導入事例:佐賀大学医学部
導入事例
佐賀大学医学部
検索データで患者さんの理解を深める
佐賀大学肝疾患センターの挑戦
佐賀大学医学部附属病院肝疾患センターでは、肝がん死亡率を低下させるための取り組みとして、さまざまな啓発活動に取り組んでいます。今回はセンターで相談員として勤務されている傍ら、佐賀大学院生としての側面も持つ井上香様にお話を伺いました。
佐賀大学医学部附属病院 肝疾患センター 井上 香 様
- 肝疾患センターでの取り組みについてお聞きします
佐賀県はもともとB型肝炎、C型肝炎といったウイルス性肝炎の患者さんや、それらが原因で肝がんによって亡くなる患者さんが多い状況でした。2011年、佐賀県は佐賀大学に肝疾患センター(以下センター)を設置し、より積極的な対策を進めてきました。
センターでは佐賀県の肝がんや肝炎を少なくするという目標のもと、市民公開講座などによる一般の方への啓発や、医療機関への資材提供などを行っています。
最近は、テレビでのCM放送を始め、新聞、ウェブなどさまざまな媒体を通して啓発活動を行っています。
- DS.INSIGHTを導入した背景を教えてください
近年、脂肪肝の患者さんが非常に増えてきています。ここで言う脂肪肝というのはアルコール性ではない非アルコール性の脂肪肝のことで、日本人の4人に1人と言われているほど、有病率が高い疾患です。
これまでのウイルス性肝炎を対象とした啓発では、肝炎ウイルス検査(血液検査)で感染の有無が比較的容易に判別できるため、まず検査を受けていただき、陽性の方に対しては受診を勧めるなど、わかりやすい対応ができていました。
しかし、脂肪肝の患者さんは非常に数が多いため、絞り込みや拾い上げが難しく、今まで我々がやってきた啓発とは違う方法を試した方がいいのではという思いがありました。
今後の脂肪肝の啓発を検討していたタイミングでセンター長よりDS.INSIGHTを紹介され、検索データにおける脂肪肝への関心の傾向を知ることができれば、新しい啓発方法のヒントになるのではないか、ということで取り組みを始めました。
- 検索データにはどのような期待がありましたか?
最初は、今まで知られていなかった新しい傾向があるのではないかということを期待していました。例えば脂肪肝を調べる人の特徴として、特定のタレントさんのダイエットのブログを見ているとか、ある特定の病気を調べているだとか、啓発すべき対象者が検索する特定のワードがピンポイントで見つかったら面白いね、という話をしていました。
実際、「子宮がん」などの婦人科の病気や、「胃カメラ」など脂肪肝とは直接関係がなさそうな検査内容など、想定していなかった検索ワードがあり、非常に興味深かったです。しかし、脂肪肝の検索と関連性が高く、かつ検索数が多いという観点で絞り込むと、そのような想定外の特定のワードはあまりないということがわかりました。
- 分析結果をどのようなことに利用されたのでしょうか
最終的に、ウェブ広告による啓発を行う上でのキーワード選定を行ったのですが、検索が非常に多かったメタボリックシンドローム関係のキーワードを中心に、脂肪肝の検索と関連性の強いキーワードをDS.INSIGHT の解析結果に基づき"ターゲットキーワード"として選びました。そもそも脂肪肝は医学的にもメタボリックシンドロームと非常に関連性が高い病態です。今回の分析で、実際にメタボリックシンドロームに関連するワードを、関心を持って検索している方が非常に多いということがわかったので、それは大きな収穫だったと思います。ターゲットキーワードの検索時に、脂肪肝に関するウェブ広告を表示することで、"脂肪肝検索予備群"に、脂肪肝の知識や放置した時の怖さを訴えることができました。
DS.INSIGHT Peopleのデータから作成
ウェブ広告によるバナーの検討
- 実際にはどのように分析を進められたのでしょうか。
DS.INSIGHTによる分析を「脂肪肝」とした場合、医療従事者による検索と考えられる関連ワードが多かったのですが、「脂肪肝 治し方」に設定すると非医療従事者の方が調べていると思われる傾向を捉えることができました。例えば、健康診断等の結果に記載されている項目をそのまま打ち込んでいることがうかがえるワードが散見されました。今回はこの方法で非医療従事者と想定される方の検索傾向を捉えることができましたが、他の疾患については傾向を見ながら検索ワードを検討する必要があると考えます。あとは、時系列キーワード機能を使い、関心の度合いについての分析などを行いました。
DS.INSIGHT People「脂肪肝 治し方」のキーワードマップ
- 何か気づきなどはあったのでしょうか?
「脂肪肝 治し方」を検索した基準点に近くなると検査項目のベタ打ちのようなキーワードがすごく増えてきている印象でした。おそらく、この辺りでエコーや血液検査への関心が高まっていると思います。例えば、「胆嚢腺筋腫症」という疾患はエコーで見つかるものとして頻度は低くないのですが、一般の方はあまり聞いたことがないと思います。しかし検索した方がいたということは、検査結果をみながら入力したことが推測されました。
DS.INSIGHT People時系列キーワードによる分析
- 他にはどんな気づきがありましたか?
関連のキーワードだけでもかなり数が多かったので、単純に面白いなと思う反面、やはりそれらをしっかりカテゴライズしていくというのが難しかったです。今回は一定以上の検索数があるキーワードだけを採用しましたが、検索数が少なくても関連性が高いキーワードを使った検討などもできれば、さらに深い分析ができるだろうなと思います。
関連キーワードの分類
検索データで患者さんの気持ちの理解へ
- 今回分析をされてみて、ご自身に何か変化はありましたか?
個人的にとても関心があったのは、一般の方々は医療者が思いつかないようなキーワードを調べているという点です。例えば「尿が泡立つ」というキーワードが多く検索されていたのですが、個人的な推察にはなりますがおそらく糖尿病を心配した方が検索しているのだと思いました。実際はそれだけで糖尿病を疑うことはできないので、医療者が重要視している所見ではありませんが、一般の方は非常に気にされているのだなと感じました。また、民間療法やダイエット食品も多く検索されており、医療者と患者さんの認識の違いを実感しました。
今まで、患者さんは病気という事を自覚しても、なぜ病院に来ないのか、なぜ自発的に生活習慣の改善に至らないのかと考えていたのですが、検索ワードから患者さんの本音やいろいろな葛藤を感じ取ることができ、単純な脂肪肝の啓発や、減量の指示だけではダメだという事を実感しました。患者さんの行動変容は、無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期といった段階を経て達成されます。脂肪肝が気になっていながら、受診を先延ばしにし、民間療法や健康食品に大きく頼るような方法は、医学的には適切な状態ではありません。適切な生活習慣改善療法を行うメリットや、病気を放置したときの怖さを知ってもらうことがとても大切だと考えました。
- 最後に今後の展望をお願いします
我々としては、脂肪肝をどのような層にどういった形で啓発すべきか、という点が長年の課題でした。今回、検索キーワードによる分析を基にメタボリックシンドロームに関連するキーワードの検索者に対するウェブ広告を用いた啓発を行い、有効性が確認できました。脂肪肝のみならず他の疾患においても、一般の人の興味・関心に沿った有効かつ効率的な啓発活動を展開していきたいと考えています。また、啓発後の患者さんの実際の医療機関受診の有無や受診後の生活習慣改善、また脂肪肝の予防といった観点からも検討を行っていきたいと思います。
- どうもありがとうございました!