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目覚める投資意識 - 10年間の検索データでみる投資関心の軌跡
- 事例・分析レポート
[アナリスト:井上 護]
近年、資産運用は特定の専門家や資産家だけのものではなくなり、多くの人々にとって身近な存在となってきています。政府が推進する「資産運用立国」への流れの一環として、2024年から新NISAが開始され、岸田首相自らが国民に対して資産形成の重要性を訴えています。さらに、ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格が乱高下を繰り返すなど、投資市場は常に変動し、新たなチャンスとリスクが生まれています。これらの動向は、投資に対する国民の関心を高め、資産運用への関心を刺激していると言えるでしょう。
しかし、投資が人々の間でどれほど浸透しているのか、その実態は明らかではありません。そこで、LINEヤフーが保有する過去10年間の検索データを分析し、国民の投資に対する関心度とその推移を調査しました。
本レポートでは、データを基に投資の浸透度を検証し、年代や性別、投資関連キーワードの違いを詳細に分析し、投資関心の現状を明らかにします。
過去10年間の投資関心の推移
投資に対する国民の関心を捉えるために、過去10年間の検索データを利用し、特定の投資関連キーワードのユーザー数を調査しました。このデータは、実際の投資行動を直接反映するものではありませんが、特定の投資関連キーワードに対するユーザーの関心度を測るための有力な指標となります。投資関連キーワードと対象の検索キーワードは以下の通りに定義しました:
投資関連キーワード | 対象の検索キーワード |
NISA | NISAなど |
投資信託 | 投資信託など |
iDeCo | iDeCo, イデコ, 個人型確定拠出年金など |
仮想通貨 | Bitcoin, ビットコイン, 仮想通貨など |
株 | 株購入, 株主優待, 配当金など |
FX | FXなど |
NFT | NFTなど |
金・プラチナ | 金価格, 金相場, プラチナ価格, プラチナ相場など |
外貨預金 | 外貨預金など |
各投資関連キーワードを含む検索を行ったユーザー数を月次で集計し、その推移をグラフ化しました。
このグラフからは、各投資関連キーワードに対する国民の関心の変化が読み取れます。
株式、金・プラチナ、個人型確定拠出年金(iDeCo)、投資信託などの従来の資産運用商品への関心は緩やかに増加しています。これらは安定した成長を示しており、長期的な資産形成を目指す人々が増えていることを示唆しています。
一方で、FXや外貨預金、NFTなどの市場は下降傾向にあり、特にNFTは一時的な注目を集めた後に熱が冷めつつあるようです。これは、資産運用から少し離れた投資に対する慎重な姿勢を示していると言えます。
特に注目すべきは、NISAへの関心の高まりです。2014年の開始以降、関心は顕著に伸びており、現在では2018年のビットコインバブル期にも匹敵する盛り上がりを見せています。
どのような経緯で、NISAが伸びてきたのか、時間経過に沿った変化を検索キーワードで確認してみましょう。
2014 | 2016 | 2018 | 2020 | 2022 | 2024 |
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時系列で検索キーワードを見ることで、NISAへの関心がどのように変化してきたかを追跡できます。
2016年のジュニアNISA、2018年の積立NISAの開始、そして2024年の新NISA開始が、それぞれ関心を集める要因となっていることが明らかです。NISAの継続的な改善とそれに伴う認知の拡大が、国民の投資に対する関心を高めていることが伺えます。
以上の分析から、NISAをはじめとした長期的な資産運用への関心は、以前と比較しても認知や関心が高まっていることが確認できました。
性別・年代別の投資関心の推移
投資関連の検索トレンドが全体的に上昇傾向にあるのは、前項で確認できました。しかし、本当に全ての年代、性別の範囲で投資が浸透しているのでしょうか。
より詳細に分析するため、今度は、性別・年代に分けて、全ての投資関連キーワードを対象に、それらを検索したユーザー数の推移をみてみましょう。
検索データを基に、性別ごとの検索ユーザー数の推移を見ると、2021年以前は女性の関心が男性より低いことが分かります。しかし、2019年以降から徐々に男女の差が詰まってきていることが分かります。先日実施されたLINEリサーチの結果では、「女性のほうが投資経験が少ない」という結果が得られていましたが、検索データで見ると、男女の投資関心の差が縮まってきているようです。現時点では女性の実際の投資経験は少ないものの、今後女性の投資経験も増加してくるのではないかと予想されます。
年代別の投資関心を見ると、30代から60代までの層では安定して高い関心が保たれています。これは、この年代層が積極的に資産運用に関心を持ち、情報収集を行っていることを反映しています。また、30代~60代に関しては、以前から投資関心が高い水準で推移していることが分かります。
一方で、近年においては20代と70代の関心は比較的低いことが判明しました。70代以上の低い関心は、運用から利用のフェーズへと移行しているためと推測できます。しかし、20代の低い関心は将来の資産形成にとって重要な機会を逃している可能性があり、この層の投資関心を高める取り組みが求められるかもしれません。
今回、性別と年代のデータを調査した結果、20代の投資関心の低さが明らかになりました。この洞察をもとに、20代がどの投資関連キーワードに注目しているのか、またどの投資関連キーワードに興味を示していないのかを探るために、さらなる分析を進めます。
20代の投資関心の推移と傾向
まず、全体像を把握するために、20代がどのような投資関連キーワードに興味があるのかを確認してみましょう。20代の投資関連キーワードごとの検索ユーザー割合を見てみると、「NISA」、「株」、「金・プラチナ」、「iDeCo」の順に検索ユーザー数の割合が高いことが分かります。
今回は、20代の中では、比較的関心が高い、この4つのカテゴリに焦点を当てて、ユーザー割合の変化を他の年代と比較して調査を行っていきます。
NISA関連の検索データを見ると、30~40代の関心が特に高いことが明らかになります。これは、この年代が積極的な資産形成を意識していることを示しており、NISAの利用を通じて将来に向けた投資を行っている可能性が高いです。
それに対して、20代の投資に対する関心は、比較的、中間的なレベルを保っていますが、2021年以降、増加のペースが他の年代と比べて鈍化していることが分かります。これは、30代や40代にはNISAの利点が十分に伝わり、関心を引くことに成功しているのに対し、20代には同じようには刺さっていない可能性を示唆しています。
2024年に開始された新NISAの導入が、特にこの年代にどのような影響を与えるのかは、今後の動向を見守る上で重要なポイントになりそうです。
株式投資に関する検索データを分析した結果、20代の関心が他の年代に比べて著しく低いことが分かります。このデータは、株主優待や配当利回りなどのキーワードを含む検索行動を捉えており、直接的な投資行動を示すものではありませんが、それを踏まえても20代の関心の低さは際立っています。NISAには一定の関心を示しているにもかかわらず、実際に株式を保有するまでのステップに進んでいない可能性が考えられます。
金・プラチナへの投資関心は、40代以上の年配層において比較的高いことが分かります。これは、金・プラチナが伝統的に安全資産と見なされ、市場の不安定さに対するヘッジとしての役割を果たすことから、年配層にとって魅力的な投資関連キーワードとなっていると推察できます。
一方で、20代の関心は非常に低く、この年代の投資者が金・プラチナにほとんど目を向けていないことが明らかになりました。市場の変動や株式の暴落に備え、多様な投資関連キーワードを考慮することは、リスク分散と資産保全の観点から重要です。20代にとっても、株式以外の資産運用への関心を高めることが、資産形成戦略の一環として考慮されるべきでしょう。
iDeCoに関しても、20代の関心度は30代・40代・50代に比べて顕著に低いことが見受けられます。iDeCoは若い世代が早期から取り組むべき老後資産の形成策の一つです。そのため、20代の関心がこれほどまでに低いのは、将来に向けた準備の観点から見ると、懸念材料と言えるでしょう。特に、NISAに比べても、その関心の低さが際立っているのは、さらなる注意が必要です。
さいごに
本レポートを通じて、過去10年間の投資関心の推移を見てきました。以下のことがわかりました。- ・どの年代においても、投資・資産運用への関心は年々高まってきている
- ・その中でも特にNISAに対する関心の伸びが高い
- ・性別では男女ともに同じ水準まで投資関心は高まっている
- ・一方、年代で見ると20代および70代の関心は他と比較して低い水準にある
資産運用への国民の関心が着実に高まって、投資意識が芽生えていることが確認できました。特に、NISAに対する関心の高まりは、政策の変化が国民の投資行動に与える影響の大きさを示しています。また、性別・年代別の分析からは、投資市場への参入が広がりつつあるものの、特に20代の関心の低さが投資教育や情報提供の必要性を浮き彫りにしています。
投資関連キーワードのデータ分析から、20代のNISAに対する関心は比較的高いものの、株式投資、iDeCo、金・プラチナ投資といった他の分野への関心は低いという傾向が浮かび上がっています。このことは、20代がNISAを通じて投資の世界に足を踏み入れることには興味を示しているものの、実際に投資を行うという行動には至っていないというギャップがあることを示しているかもしれません。さらに、株式投資をはじめとするその他の投資手段に関する情報や知識が不足していることも、このギャップの一因となっている可能性があります。
今後の投資関連事業における戦略策定やサービス提供にあたっては、こうしたデータに基づく洞察を活かし、より多くの人々が投資に参加しやすい環境を整えていくことが求められます。
LINEヤフーが提供する検索データの分析は、これらの課題に取り組むための有効な手段の一つです。データに基づいた戦略は、投資市場の健全な成長と、国民の資産形成の支援に寄与すると考えています。今後も、投資市場のトレンドや変化に注目し、データを活用したサービスの提供を続けていきます。今後ともヤフー・データソリューションをよろしくお願いいたします。
※今回公開したデータを含め、ヤフー・データソリューションは、お客さまのデータを統計データとしたうえでデータの可視化や分析結果をご提供するサービスであり、個人を識別できるデータ (パーソナルデータ) については、お客さまから新たに同意をいただかない限り外部に提供することはありません。
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