お客さまのビジネスに今すぐ役立つ、データに関する最新情報を定期的にお届けします
ポケモンスリープを例にデータでみるヘルスケアアプリの効果と改善
- 事例・分析レポート
[アナリスト:畑中 浩貴]
はじめに
皆さんは最近よく眠れているでしょうか?つい夜更かししてしまい、睡眠不足になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。現代社会では、心身の健康を保つためにも質の良い睡眠を取ることが改めて重要視されています。そのような中、今年の7月にリリースされて、爆発的な人気を集めている「ポケモンスリープ」をご存じでしょうか。私自身、睡眠時間自体をゲームに変えるのは見たことがなかったため、今後どのように発展していくのかを見守るのが非常に楽しみです!
一方、その成功を受けて、一点疑問が生じました。ポケモンスリープは、実際にその利用ユーザーたちの睡眠活動に影響を及ぼしたのでしょうか。本記事では、ポケモンスリープユーザーの睡眠活動について、データから紐解いていきたいと思います。
ただ、われわれには睡眠活動そのもののデータはないため、ヤフーサービスの閲覧データを用い、時間帯別閲覧ユーザー数、ユーザーの閲覧時間の差分、および特徴的な検索キーワードを見ていきたいと思います。
これらの分析を通して、ポケモンスリープのリリース前後で睡眠活動にどのような変化があったのか、睡眠に対する意識が変わったのかを確認していきます。また、睡眠以外に意識している健康問題を見つけ、新たな施策のアイデアを探っていきたいと思います。
ポケモンスリープユーザーを定義する
では、まずポケモンスリープユーザーを以下で定義します。時間帯別閲覧ユーザー数の推移比較
まずは、時間帯別の閲覧ユーザー数の推移を観察してみましょう。ここで、分析内容は以下のように設定しています。
- ヤフーサービスの指定はなしで全ての閲覧ログを用いる
- 各ユーザー群で下記の2つの期間に分けて集計する
- 前年:2022年9月1日~2022年9月30日
- 今年:2023年9月1日~2023年9月30日
- 10分ごとに閲覧したユーザー数を集計し、時間帯ごとに1カ月分の平均をとる
以上の結果のグラフが以下の通りです。
このことから、ポケモンスリープユーザーは深夜帯で睡眠するユーザーが増え、閲覧ユーザー数が減少したのではないかと考えられます。ただこれだけでは結果が曖昧なので、さらに異なる観点で睡眠時間を推定して確認してみたいと思います。
閲覧の時間差から睡眠時間の推定を行う
次に、閲覧データから睡眠時間を推定し、ポケモンスリープユーザーの睡眠時間が長くなっていそうか否かを確認してみます。分析設計を以下に定義します。- ヤフーサービスの指定はなしで、全ての閲覧データを用いる
- 各ユーザー群で下記の2つの期間に分けて集計する
- 前年:2022年9月1日~2022年9月30日
- 今年:2023年9月1日~2023年9月30日
- 前日20時から翌朝11時までの閲覧データの中で差分が最大値のものを推定睡眠時間とする
- 閲覧データの差が3時間以上12時間以下のものに限定
※20時間以上の睡眠や5分だけの睡眠など明らかにおかしいものは除外するため - 上記の結果が25日以上残っているユーザーごとに平均値をとる
次に、各ユーザー群の前年と今年の推定睡眠時間の平均値のグラフおよび表は以下の通りでした。
また、経済協力開発機構(OECD)の2021年版調査によると、日本の15歳から64歳までの平均睡眠時間では約7時間22分とされています。(参考:OECD「Gender data portal Time use across the world (2021)」)
この値と比較ユーザー群の推定睡眠時間と比較すると、わずかに20分ほどの差が確認できました。この差を考慮すると、今回の推定睡眠時間は妥当な範囲内にあると推測できます。
上記の結果より確認できました。このことから、ポケモンスリープは利用ユーザーの睡眠時間を向上させる効果がある可能性があると予想できます。
特徴的な検索キーワード
次に、ポケモンスリープユーザーの睡眠活動への意識は変わったのか、その他に意識している健康問題があるのかどうかを確認するため、特徴的に検索していた検索キーワードを集計します。ここで、集計の定義は以下とします。
- 期間:2023年7月1日~2023年9月30日
- ポケモンスリープユーザー群・比較ユーザー群それぞれでヤフー一般ユーザー全体と比較し検索特徴度を集計
- 「ポケモン」「pokemon」「ポケスリ」が部分一致で含まれる検索キーワードは除外
- 特徴度が1以上の検索キーワードに限定
- 検索ユーザー数が一定の値を超えた検索キーワードのみを対象
ひとまず、「睡眠」または「寝る」が部分一致で含まれている検索キーワードを抽出してみました。ここで、ポケモンスリープユーザー群ではポケモンスリープ内の用語が多くみられたため、睡眠活動改善を意識する検索キーワードを抜粋したものが以下の通りです。
また、ポケモンスリープによる意識が変化したかどうかを確認するために、集計期間をポケモンスリープがリリースされる直前の2023年4月1日から6月30日に設定して同様に集計しました。以下がその結果です。
次に、「睡眠」以外にポケモンスリープ関心ユーザーが気にしている健康問題を「健康・医療」カテゴリーのフィットネスに関連した検索キーワードを抜粋したものを確認していきましょう。
比較ユーザー群は「汗をかくと痩せる」や「運動不足」などの運動に関する一般的な知識を調べていることに対して、ポケモンスリープユーザー群はトレーニングの種類や、ストレッチなどの体のケアを労る検索キーワードがみられ、どのようなエクササイズを行うべきか、どのように体調管理をすべきかを調べていると予想できます。また「フィットボクシング」や「リングフィットアドベンチャー」などゲームを通して家の中でできる運動に興味がありそうだと考えられます。
このことから、ポケモンスリープユーザーに新たにヘルスケアアプリを訴求するとした場合、以下のような機能を持つアプリが良いと考えられます。
- ユーザーがその日の体調や気分を毎日簡単なアンケート形式で回答する機能
- アンケートの結果や過去のデータに基づき、パーソナライズされた家でできるエクササイズ・ストレッチ・体調管理の提案を行う機能
- 上記のエクササイズ・ストレッチの提案が ゲームのミッション形式で出され、クリアを重ねることでユーザーのポケモンが成長していく機能
このようなアプリがあれば、ユーザーは楽しみながら健康管理に取り組み、体を動かす機会も増えるかもしれませんね。
終わりに
今回は閲覧データを用いることで睡眠時間を推定し、ポケモンスリープがユーザーの睡眠時間を延ばす傾向にある可能性を確認することができました。また、特徴的な検索キーワードからユーザーの睡眠活動への意識変化や何を求めているのかの推測ができたことで、ヘルスケアアプリの新たなアイデアを得ることもできたのではないのでしょうか。
※今回公開したデータを含め、ヤフー・データソリューションは、お客さまのデータを統計データとしたうえでデータの可視化や分析結果をご提供するサービスであり、個人を識別できるデータ(パーソナルデータ)については、お客さまから新たに同意をいただかない限り外部に提供することはありません。
※本記事の内容は公開日時点の情報です。
お客さまのビジネスに今すぐ役立つ、データに関する最新情報を定期的にお届けします